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東京地方裁判所 昭和28年(ヨ)9952号 判決

債権者 リンビン・タイク・テイン・ラツト

債務者 ビルマ連邦

一、主  文

債権者が金三万円の保証を立てることを条件として

(一)  債務者は別紙<省略>目録及び図面記載の土地の上に建物工作物その他の工事施設をしてはならない。

(二)  債務者は右土地に対する債権者の占有並に使用を実力を以て妨害してはならない。

(三)  債務者は右土地に立てた「THIS PROPERTY IS THE PROPERTY OF BURMA GOVERNMENTビルマ政府所有地」なる記載のある立札全部を取除かねばならない。

(四)  債務者は右土地の南端及び北端に設置した鉄条網を張り廻した垣根を取り除かねばならない。

訴訟費用は債務者の負担とする。

二、事  実

一、申請の趣旨

(一)  債務者は別紙目録及び図面記載の土地の上に建物工作物その他の工事施設をしてはならない。

(二)  債務者の右土地に対する債権者の占有並に使用を実力を以て妨害してはならない。

(三)  債務者は右土地に立てた「THIS PROPERTY IS THE PROPERTY OF BURMA GOVERNMENTビルマ政府所有地」なる記載のある立札を取り除かねばならない。

(四)  債務者は右土地の南端及び北端に設置した鉄条網を張り廻した垣根を取り除かねばならない。

(五)  債権者の委任した東京地方裁判所執行吏は右命令の趣旨を公示しかつ第三項第四項の命令を執行するため適当の処置をとらなければならない。

二、申請の理由

債権者は、別紙目録記載の土地(以下本件土地という)の所有者でありかつ占有者であるが債務者は昭和二十九年三月二十六、七日頃本件土地上に申請の趣旨第三項及び第四項記載の工作物を設置して債権者の右所有権及び占有権を妨害し、かつ今後も本件土地上に植樹、工作物の建築をして右権利を妨害するおそれがある。

即ちこの間の事情を詳述すれば、本件土地はもと益田太郎の所有であつたが、債権者の妻の父にあたる亡テイン・モン(当時ビルマ国駐日大使)が昭和十九年五月頃本件土地を益田から買取つたところ、当時外国人たるテイン・モンは土地所有を許されなかつたため、同人は伊藤鈴三郎と通謀して本件土地の登記簿上の所有名義を伊藤鈴三郎としておいた。終戦後本件土地は連合軍により日本国のかいらい政府関係の資産であるとみなされ、その処分や現状の変更は一切禁止されたが、昭和二十七年三月これはテイン・モンの財産であつたことが認められて右禁止は解除され本件土地は伊藤に引渡された。この間にテイン・モンは死亡しその妻ラ・キンキン・ラ及び娘マ・キンキン・テンがビルマ法により本件土地を共同相続したので、伊藤はこの両名のために管理人として本件土地を占有してきた。一方債権者は昭和二十八年五月十七日右相続人両名から本件土地の所有権を譲受けて来日し、同年十一月三十日伊藤から本件土地の占有権を譲受け、かつ売買名義で所有権の移転登記を経た。

しかるに債務者は債権者に対し、同年十二月一日テイン・モンではなくて同人によつて代表される債務者が本件土地を買入れたものであるから、その所有者は債務者であり債権者の所有権移転登記は真実と相違するので右登記の抹消請求権保全のため、本件土地について売買等一切の処分禁止の仮処分を東京地方裁判所に申請し(同年(ヨ)第九二一一号)、同日申請通りの決定を得てこれを執行するとともに、本件土地の周囲に急いで「ビルマ政府所有地」なる標示板をたて建物を建築し植樹をしようと企てたので、債権者は本件申請に及んだのである。そして同月二十三日本件申請につき債権者代理人が債務者の代理人若林清外二名と東京地方裁判所で相会した折、債権者代理人から債務者代理人に本件土地の所有権の帰属に関する本案訴訟の終了迄その現状変更行為をしないように申入れ、債務者代理人もこの申入れを債務者に取次ぐ旨言明した。その結果昭和二十九年二月下旬頃債務者から債権者に対し、本件紛争を友好裡に解決したい旨、及び同月二十四日の本件口頭弁論期日を一ケ月程延期されたい旨の申入れがあり、債権者はこれに応じて裁判所に期日延期の申請を行つた。ところが債務者は此の間にビルマ連邦高等裁判所に債権者に対し本件土地につきいかなる外国裁判所にも訴を提起することを禁じかつ本件土地の処分行為を禁ずる旨の訴を提起するかたわら、さきの昭和二十八年(ヨ)第九二一一号仮処分申請事件を取下げ、かつビルマ連邦首都裁判所に前記の訴を提起したことを新聞「ニツポンタイムス」等に広告し、昭和二十九年三月二十六、七日頃本件土地の周囲に前記の鉄条網を張り廻らした垣根を設置してしまつた。なお本件土地は駐日ビルマ総領事館の隣接地であるがその間に土堤及び溝があつて明に区劃されその敷地でなく、同総領事職員において全くこれを使用していない。

以上の事情によつて明らかなように債務者の所為は債権者の本件土地所有権及び占有権に対する妨害行為であり、かつ将来も債務者がかゝる妨害をなすおそれがある。こゝにおいて債権者は仮の地位の定める仮処分として申請の趣旨記載のような判決を求めるものである。

三、答弁

債務者は適式の呼出をうけながら本件口頭弁論期日に出頭せずかつ答弁書其の他の準備書面を提出しない。

四、疏明

<省略>

三、理  由

第一、職権を以て案ずるに、

一、債務者ビルマ連邦が、数年前独立してその政府を有し特定地域の領土並に人民を統治し、同連邦の領事が我国に駐在していることは、当裁判所に顕著なるところにして、他に、同連邦が右領土並に人民を排他的に支配していない等の特別の事情の疏明のない限り、たとい我国において同連邦を正式に承認していないとしても、同連邦を以て民事訴訟における外国国家と一応認めるほかない。而して、国家は他国の権力作用に服するものでないので、民事訴訟に関しても他国の裁判権に服しないものというべく、このことは一般に承認されている国際法上の原則と認めることができる。これに従えば、外国国家たる債務者ビルマ連邦は我国の裁判権に服しないというほかない。然しながら、外国が条約によつて他国の裁判権に服することを定めた場合及び特定の事件につき他国に対し右原則上の特権を抛棄してその国の裁判権に服する旨を表示した場合において、外国国家が他国の裁判権に服することあるはいうまでもない。また、不動産を直接目的とする権利関係の訴訟においては、その裁判権はその所在国に専属することが広く承認されているものと認められるので、これによるときは、かような訴訟については、外国国家が他国の裁判権に服することがあるものと言わねばならない。一般に国際裁判管轄については、未だ明確な国際法上の原則が認められないので、各国はその裁判権の限界につき自らこれを定めるほかなく、従つて、かような定めがあるときは、たといそれが外国によつて尊重されなくとも、国内法上はその効力を有し、外国国家に対し裁判権を有する結果となるは明なるも、我国においてはこれを定めた特別の規定がないので、国際上の慣行その他によりこれを判断するほかない。而して不動産については、それが従来所在国の領土主権の主要な対象であつたので、互にこれを尊重することが国際間の礼譲とされ、かかる不動産を直接目的とする権利関係の訴訟はその所在国の裁判権に専属することが、長きに亘り多くの国により承認されて来たことを否認するに由なく、これは、その趣旨と経過に鑑み、唯一私人が当事者である場合に限らず、外国国家が当事者である場合にも自ら承認されて来たものと考えざるを得ない。勿論国際間には右のような裁判権の帰属を承認しない国のあることを否定し得ないので、右のような事実を以て、直に広く国際法上の慣行となし得るかは論議の余地なしとしないが、少くとも右のような事実を否定し得ない以上これに慣行的効力を認めて判断することを一概に否定し得ないので、これと民事訴訟法第十七条により、当裁判所は、我国に所在する不動産を直接目的とする権利関係の訴訟については、たとい、外国国家を当事者とする場合においても、我国に裁判権があり、その所在地の裁判所の管轄に属するものと考えざるを得ない。よつて、本件訴訟につきみるに、我国とビルマ連邦との間に裁判権の限界を定めた条約はないが、債権者の主張に従えば、債権者は別紙目録記載の土地の所有権並に占有権を主張し、これに対する債務者の妨害の排除並に予防を求めているので、これによれば右土地は我国に所在し、当裁判所の土地管轄の範囲に存することが明であるので、前段説示に従えば、裁判権についての債権者の主張を判断するまでもなく、ビルマ連邦を債務者とする本件訴訟につき我国に裁判権があり当裁判所がその管轄権を有するものと考えざるを得ない。

なお、外交使節及びその随員等は駐在する国の裁判権に服しない特権を有し、その居宅等の不可侵権はこれを尊重すべきことは、国際上の慣例というべきを以て、これと牴触する裁判権の行使は制限されるものと言うべきところ、債権者の事実上の主張は債務者において後記の如く争はないので、その事実によれば前記土地は債務者ビルマ連邦の総領事館に隣接する土地にして、現在右総領事館の敷地とは区劃され総領事館の職員その他において何等これを使用している形跡のないことが認められるので、この限りにおいては前記土地を総領事館の敷地と言うに由なく、従つて、右総領事館の職員が前記外交使節及びその随員に該当するか否かを判断するまでもなく、前記土地を不可侵権を有する居宅その他と認めるに由ない。然らば前記土地についての裁判権の行使につき何等の支障なきものといわざるを得ない。

二、次に債務者ビルマ連邦の代表関係につき案ずるに、ウ・ミヤツトタンが我国駐在のビルマ連邦総領事なることは真正に成立したものと推定される甲第一号証に照し明であり、一般に国際法上総領事は外交上国を代表する権限がないものと解されるが、民事訴訟法上国を代表する権限ありや否やは一に本国法たるビルマ連邦の法制によるべきところ、右甲第一号証及び真正に成立したものと認める甲第二号証によれば、右総領事が我国における私法上の行為につきビルマ連邦を代表して一切の裁判上の行為をなし得る権限のあることが、一応認められ、これを左右するに足る格別の証拠がない。

三、進んで、本件口頭弁論期日の呼出状の送達の適否につき案ずるに、前記総領事が外交使節及びその随員として前記特権を有し、その居宅その他に不可侵権があるか否かは明でないが、仮に然りとせば前記国際上の慣例により前記総領事並にその居宅等に対しては民事訴訟法にいう送達は許されないものというほかないが、債務者ビルマ連邦が我国の裁判権に服すべき場合においては、その限りにおいては裁判権の行使を認めるほかないので、その代表者はたとい外交使節及びその随員としての特権を有しその居宅等に不可侵権があつても、これに対する送達を以て前記国際上の慣例に違反するものとは考えられない。而して、本件につきこれをみるに、本件口頭弁論期日の呼出状が東京地方裁判所執行吏によりビルマ連邦総領事館に適式に差置かれたことが明であるので、右呼出状は適法に送達されたものとなさざるを得ない。

第二、よつて、本件申請につき案ずるに、

債務者は、前記の通り適式の呼出を受けたに拘らず、本件口頭弁論期日に出頭せず且つ答弁書その他何等の準備書面をも提出しないので、民事訴訟法第百四十条に従い、債権者の主張する事実は全部債務者において自白したものとみなすほかなく、該事実によれば、債権者が本件土地を占有しているに拘らず、債務者が債権者の主張するように、鉄条網のある垣根を廻らし、標示板を立てていること、及び債務者が将来右土地上に植樹、建築等をなし債権者の右占有を妨害せんとする虞のあることが明であるというほかないので、債権者は債務者に対し右垣根及び標示板の撤去を求め得べく、また右妨害の予防として妨害すべからざることを求め得るものといわざるを得ない。而して、右のような事情の下においては、特別の事情の疏明のない限り、右妨害は前記土地の占有権を妨げ債権者に甚しい損害を与え、その妨害の虞は急迫なるものと認めるほかないから、債権者には仮処分により右妨害の排除並に妨害を予防する必要あるものと考えざるを得ない。然らば、本件申請については理由ありとなすべきを以て、債権者が本件土地の占有権を有するものとしての仮の地位を定め妨害排除並に予防のため申請趣旨(一)乃至(四)の申請はこれを認容する要あるものというべく、なお、申請趣旨(五)は、その前段は本件土地を執行吏に保管せしめる場合のほかその必要の認められないものというべく、その後段は前記(三)及び(四)につき、執行の措置を求めるものと解するほかなきところ、前記認定の事情に照せば、債権者が現に被つている前記妨害は前記(三)及び(四)の作為義務が自発的に履行されるほかその執行により一応これを除去するに足るものと認め得べく、重ねてかかる措置を認容する理由に乏しいものというほかないのでいずれもその要なきものと認め、債権者をして金三万円の保証を立てしめることを執行の条件として申請趣旨(一)乃至(四)の申請を容れ、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の如く判決する。

(裁判官 脇屋寿夫 荒木秀一 沖野威)

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